生物のサイズは成長や可塑性により時間とともに変化します.自然界ではほとんどの捕食者と被食者の関係が両者のサイズのバランスで決まるにもかかわらず、サイズ変化を考慮した相互作用研究はほとんどありませんでした.ここで紹介する研究は,相互作用の動的性質を理解するうえで,サイズ変化に注目することが有効なアプローチになることを示すものです.
1.捕食者の共食いは餌種にとってありがたいことなのか?
従来,捕食者種の共食いは餌種に対して正の効果があると考えられてきました.なぜなら,共食いによって捕食者種の個体数が減り,共食い個体の脅威にさらされた非共食い個体が餌を活発に獲らなくなるからです.しかし私たちは,エゾサンショウウオ幼生とエゾアカガエルのオタマの関係では反対のことが起こることを発見しました.
自然界ではエゾサンショウウオはエゾアカガエルよりも2-3週間ほど遅れて孵化することが普通なのですが,そのような場合,サンショウウオが孵化した時点でオタマはすでに大きく成長しているためオタマはサンショウウオの餌にはなりません.オタマを食うにはサンショウウオが大型化する必要があり,それを可能にするのが孵化直後の共食いだと私たちは考えました.
この仮説を検証するために,私たちはサンショウウオ幼生が共食いしやすい状況(共食い区)と共食いしにくい状況(非共食い区)を実験的に再現し,その後のオタマに対する捕食圧を調べました.非共食い区では90%以上のサンショウウオが生き残ったものの,サンショウウオは小さいままだったためオタマはほとんど食われませんでした.一方,共食い区では,共食いによりサンショウウオの個体数は10%ほどにまで減りましたが,生き残った個体が劇的に大型化したため,予想通りに,その後オタマに強い捕食圧がかかりました.ちなみに共食い区のいくつかの水槽で,大型化したサンショウウオを人為的に取り除いてみたところ,オタマは減らなかったことから,大型化が強い捕食圧の決め手になったことは間違いなさそうです.さらにこの捕食の効果は,オタマの行動や形態の防御さらには変態時のサイズやタイミングにまで影響が波及することが分かりました.
論文
Takatsu K. & Kishida O. (2015) Predator cannibalism can intensify negative impacts on heterospecific prey. Ecology (印刷中)
2.捕食者と被食者の孵化タイミングがその後の相互作用を決める理由
魚類の研究では,捕食者種が早く孵化した年には,餌となる魚種に対し,数か月にわたって強い捕食圧がかかり続けることが知られています.捕食者種が早く孵化した場合,捕食者に有利なサイズ関係が成立することから,その時点で捕食がおきやすいことは容易に想像がつきますが,その後もしばらくの間,捕食され続けるのはなぜでしょうか? 私たちはこれもまた捕食者の大型化がカギになっていると考えました.この仮説を確かめるために私たちはエゾサンショウウオ幼生とエゾアカガエルのオタマの孵化タイミングを操作した実験を行いました.その結果,サンショウウオが遅く孵化すると,シーズンを通してオタマ優位なサイズ関係が維持され,オタマ食いがほとんど起こらないことが分かりました.一方で,初期のサイズ関係がサンショウウオ優位になるほどサンショウウオが早く孵化した場合には,すぐにオタマ食いが起こりました.そこでは小さなオタマが先に食われ,生き残ったオタマも頭を膨らませたため,オタマ集団は徐々に大型化し食われにくいサイズへ変わっていったのですが,なんとサンショウウオがそれ以上に大型化したため,その後もオタマは食われ続けました.一連の結果は,捕食と成長のフィードバックが,孵化フェノロジーをきっかけとする食う-食われる関係を長期にわたって維持するメカニズムになっていることを示しています.一度捕食が起こるだけで捕食者有利なサイズ関係が成立しやすい系,例えば被食者個体が栄養価に富んでいるような系では,孵化フェノロジーは相互作用に大きな影響を及ぼしているかもしれません.
論文
Nosaka M., Katayama N. & Kishida O. (2015) Feedback between size balance and consumption strongly affects the consequences of hatching phenology in size-dependent predator–prey interactions. Oikos 124:225-234.